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第41回PUSH!1st.「老乱」

2026.08.24
Push!1st.

老乱

久坂部羊/朝日新聞出版/935円(税込)

『老乱』は久坂部さんが当事者となったこの体験なくしては書き得なかったのではないか。認知症は視点を変えれば介護者に偉大な力を与える。本作はその一つの証左である。
――最相葉月(解説より)

在宅医療を知る医師でもある著者が描く迫力満点の認知症小説。
老い衰える不安をかかえる老人、介護の負担でつぶれそうな家族、二つの視点から、やっと見えてきた親と子の幸せとは? 医師、家族、認知症の本人のそれぞれの切実な"不都合な"真実を追いながら、最後にはひと筋の明るいあたたかさのある感動の物語。

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著者/久坂部羊さんのコメント

 長年、在宅医療に携わったので、多くの認知症の患者さんやご家族と出会いました。上手な介護をしている家もあれば、あまり好ましくない状況に陥っている家もあります。圧倒的に多いのは後者です。認知症ははじめての経験で、勝手がわからず、ついつい当たり前の反応をしてしまうからです。すなわち、認知症を治したいとか、これ以上悪化させたくないとかいう思いです。
 それは当然の願いですが、残念ながら今の段階では認知症は治りません。進行を止めることもできません。その現実から目を背け、認知症を闇雲に拒絶すると、ストレスが強まり、逆に当人の症状を悪化させたり、家族の苛立ちや嘆きを深めたりします。そんな状況を経験するたびに、私はもったいないなと思い、なんとかよりよい認知症介護はできないものかと、頭を悩ませました。
 認知症には「早期発見、早期絶望」という言葉があります。治らないし、悪化も防げないのだから、早く見つければみつけるほど、絶望も早まるということです。
 認知症は新しい病気ではなく、かつては「もうろく」「老人ボケ」などと言われた自然な老いの一種です。それなのに病名がついたことで、病気なら治せる、予防できるという勘ちがいを生み、現代人に余計な苦しみを背負わせました(将来的には、治せる可能性もゼロではありませんが)。
 認知症を疑われた高齢者は、自然な老化現象の物忘れでも、認知症が進んだのではと恐れ、家族も予期不安に襲われ、穏やかな日常が破壊されます。
 では、どうすればいいのか。私が実際に経験した最良の認知症介護を実現しているご家庭をモデルに、その境地に至るまでの経過を、わかりやすいフィクションを加えて描いたのが『老乱』という小説です。
 認知症は治らない、悪化も止められない、それでも良好な介護はできる。私が本作で伝えたかったのは、絵空事ではない実現可能な望ましい認知症の受け入れ方です。

著者来歴

1955年大阪府生まれ。小説家・医師。大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院にて外科および麻酔科を研修。その後、大阪府立成人病センターで麻酔科、神戸掖済会病院で一般外科、在外公館で医務官として勤務。2003年『廃用身』で作家デビュー。2014年『悪医』で第3回日本医療小説大賞を受賞。その他の小説に『老父よ、帰れ』『生かさず、殺さず』『あなたの命綱』ほか多数。

〈開催期間:2026年8月24日(月)~ 10月4日(日)〉
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