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第39回PUSH!1st.「文身」

2025.08.18
Push!1st.

己の破滅的な生き様を私小説として発表していた小説家。
しかし、彼の死後判明したのは、実は死んだはずの弟が書いた小説を彼が実行していたということ。たとえそれが殺人であったとしても......
どこまでが現実で、どこからが虚構なのか?
読み終えた後、きっとまた読み返したくなります。

文身

岩井圭也/祥伝社/858円(税込)

この小説に書かれたことは必ず実現しなければならない。たとえ殺人であっても――。
己の破滅的な生き様を私小説として発表し続けた文壇の重鎮、須賀庸一。 

彼の死後、絶縁状態にあった娘のもとに、庸一から原稿の入った郵便物が届く。
遺稿に書かれていた驚くべき秘密――それは、すべての作品を書いたのは約60年前に自殺したはずの弟だということ。
さらには原稿に書かれた内容を庸一が実行に移し、後から私小説に仕立て上げていたという「事実」だった......。超弩級の面白さ!戦慄のラスト1行!新感覚ミステリーの傑作を見逃すな!

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著者/岩井圭也さんのコメント

この小説は、作家として刊行した3作目の作品です。当時デビューから2年目でしたが、私は会社員としてフルタイムで働きながら小説を書く兼業作家でした。執筆時間は土日祝日、そして平日出勤前の午前4時から6時でした。
 そのころは、「本業は?」と訊かれたら「会社員」と答えていました。収入という意味でも、費やしている時間という意味でも、当時の私の本業は会社員であり、小説を書くことは余暇を使った活動という位置づけでした。「作家」というより、「小説を書いている会社員」という自己認識だったのです。謙虚といえば聞こえはいいですが、裏を返せば、自分の小説への自信のなさからくる認識でもありました。
 そんななかで『文身』という作品は、私の自己認識を強烈に揺さぶり、「作家」になるよう迫ってきたのです。本作では菅洋市という私小説作家、そしてその裏にある須賀庸一・堅次兄弟の人生を描いているのですが、執筆中は作者である私自身も「お前に作家としての覚悟はあるのか?」と問われ続けている気がしました
 自分は菅洋市のように、人生を賭して小説と向き合っていけるだろうか? 本編を書き終えた時、その問いに対する答えが、ほんの少し見えた気がしました。これまでに書いた作品とは違う手応えがありました。この作品を刊行して以後は、「本業は作家」と胸を張って言えるようになりました。
『文身』の刊行から2年後、私は会社を辞め、作家専業で生きていく決心をしました。もしかしたら、そのまま会社員であり続けたほうが、はるかに平穏で安定した生活を送ることができていたのかもしれません。しかし、小説に人生を捧げ、死ぬまで書き続けるのだと決めた以上、専業になる以外の選択肢はありませんでした。
 本作に登場する須賀庸一は、小説によって人生の軌道が逸れていきます。そして『文身』という小説を書いたことで、作者である私の人生も大きく変わったのです。

著者来歴

1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018 年『永遠についての証明』で第9回野生時代フロンティア文学賞を受賞し、デビュー。『最後の鑑定人』『楽園の犬』で日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補、『完全なる白銀』で山本周五郎賞候補、『われは熊楠』で直木賞候補。『文身』(祥伝社文庫)でKaBosコレクション2024金賞を受賞。他に『舞台には誰もいない』『いつも駅からだった』(ともに祥伝社刊)など、著作多数。

〈開催期間:2025年8月18日(月)~ 9月28日(日)〉
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