読む人の心に奇跡をおこす、あまりに愛おしい物語。ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。もういない、わたしの弟。――天使みたいだった少年が、この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。4歳から8歳まで、残された古いノートには、痛いほどの真実が記されていた。ある雪の日、わたしの耳に、懐かしい音が響いて......。
物語作家いしいしんじの誕生を告げる奇跡的に愛おしい第一長篇。
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2000年12月に刊行されたこの物語を、わたしは、2000年から2001年へと日付が移り変わってまもなく読みはじめました。そして21世紀さいしょの元旦の夕方、呆然としながら読み終えました。それまで読んできたどんな物語とも、どんな小説とも、それは似ていませんでした。ほどなくお会いすることになったいしいさんもまた、それまでお会いしたどんなひととも似ていなかった。ちがう時代に生まれていたら、いしいさんは、町や村をめぐりながら、物語をしてあるくひとになっていたような気がします。現代に生きているいしいさんは、やっぱり、歩く物語のようなひとです。『ぶらんこ乗り』は大きな物語に小さな物語がいっぱいつまったつづらのようなお話。この本を読むことは、生きたことのない世界を実際に生きることに等しい。そういう本です。
1966(昭和41)年大阪生れ。京都大学文学部仏文学科卒。1996(平成8)年、短篇集 『とーきょーいしいあるき』刊行(のち『東京夜話』に改題して文庫化)。2000年、 初の長篇『ぶらんこ乗り』刊行。2003年『麦ふみクーツェ』で坪田譲治文学賞受賞。 2012年『ある一日』で織田作之助賞受賞。『プラネタリウムのふたご』『ポーの話』 『みずうみ』『四とそれ以上の国』など。現在、京都在住。