和久山隆彦の職場は図書館のレファレンス・カウンター。利用者の依頼で本を探し出すのが仕事だ。だが、行政や利用者への不満から、無力感に苛まれる日々を送っていた。ある日、財政難による図書館廃止が噂され、和久山の心に仕事への情熱が再びわき上がってくる...。様々な本を探索するうちに、その豊かな世界に改めて気づいた青年が再生していく連作短編集。
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図書館のレファレンスカウンター、ご存じですか。
利用客が来て「こんな本が読みたい」「こんなことを知りたい」などと伝えると、数分ないし数日の調査の上、
「この本でしょうか」
と差し出してくれる、いわば本のソムリエのいるカウンター。『おさがしの本は』の主人公は、ここであなたの来てくれるのを待っているのです。
つまり私は、本さがしの本が書きたかった。
なぜなら私も本好きのひとりで、読むのももちろん好きだけれど、それ以上に、さがすほうが好きだからです。少なくともこれまでは、さがすほうに費した人生の時間のほうが長かった。自分でもやや本末転倒という気がしないでもないんですが、その意味で、私は、私の経験をここに存分につぎこみました。
が、じつを言うと、それは事の反面にすぎません。
『おさがしの本は』のもう一面は、図書館そのものの置かれた社会的情況への挑戦なのです。
現在、かなりきびしいですよね。どこの自治体でもお決まりの財政難、産業優先、文化施設への予算削減。その影響をまっさきに受けるのが図書館だからです。運営がまるごと民間団体に託されるなどはいいほうで、最悪の場合、図書館そのものが整理の対象になる。つぶされてしまうんです。
私たちの主人公も、そういう「最悪」にみまわれました。
彼の図書館は死んでしまう。もうすぐこの世から消えてしまう。もしも彼が本好きなら、レファレンスカウンターの仕事をつづけたいなら、彼はみずから図書館を救わなければならないのです。しかし一介の職員に、ほんとうに、そんなことが可能なのでしょうか。
図書館は、この世になぜ必要なのか。
それを考えることは、結局、本はなぜ必要なのかを考えることです。その意味で『おさがしの本は』は、私たちが本をさがす理由そのものをさがす本でもあるのです。
1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒。
2003年、「キッドナッパーズ」で第42回オール讀物推理小説新人賞受賞。
近著に、『こちら警視庁美術犯罪捜査班』『若桜鉄道うぐいす駅』『ホテル・コンシェルジュ』『シュンスケ!』などがある。