中堅の広告代理店勤務の狛江が拝命した北九州支店への転勤。意気揚々と赴任した新・支店長狛江を待ち受けていたのは、なんとヤクザの兄弟杯! 平凡なサラリーマンだったはずの狛江は、あっという間にカタに嵌められ、アリ地獄のような借金漬けに。借金返済のために課せられる予想外の非合法的営業活動、そして爽快なまでの暴力・暴力・暴力。しかし、ひどい目にあわされたものの、遠くの冷たい妻子より、妙に家庭的な近くのヤクザにいつしかなじんでしまった支店長の今後はいかに――!? スラップスティックで、一風変わった大人の成長物語。
在庫を見る
「Iターン」とは、本来、都市で生まれ育った人が、地方企業に就職することを示す言葉。しかし本作の「I」とは「自分」。主人公の狛江が、本当の自分にターンすべく、迷い、のたうち回り、足掻く物語です。
狛江は広告代理店勤務。北九州に支店長として単身赴任したのが運の尽き。実は支店はハナからリストラ候補。それでも必死に営業に励みますが、仕事のトラブルから借金を抱え、挙げ句、やくざに絡まれ万事休す。
狛江があれよあれよという間にカタに嵌められていくさまはコワいのですが、あまりにテンポがよすぎて、もはや痛快。これぞ近作「侠飯」シリーズにも通じる福澤節。ひとたびこのグルーヴに巻き込まれたら、脳からはドーパミンが噴出、ページを繰る手を止めることは不可能です。 一方、痛快さの裏で、福澤さんは私たちに重大なテーマを突きつけます。「働くって何?」「会社って何?」「正義って何?」――。
「都合の悪いことは、みんな下っぱのせいにして、給料やボーナスを削ったり、リストラしたり、(会社は)上の人間が金を取り込むためにあるんすか」
部下の柳が、狛江に食ってかかる台詞です。
本作には、百科事典の飛び込み営業に始まり、水商売、コピーライター、専門学校講師など数多の職を経た福澤さんの〝仕事観〟が横溢しています。誰もがその言葉に自らの立場を投影し、考えざるを得ないでしょう。
ノンストップのエンタテインメント性と、それを貫く骨太のテーマ。福澤作品の真骨頂が、本作には詰まっています。この先の人生に悩む中堅サラリーマンの方々。今まさに仕事選びをしている学生さん。あるいは、何か面白い小説を探している方。......つまり、すべての方々に自信を持ってお勧めできる傑作です!
1962年福岡県生まれ。デザイナー、コピーライター等を経て、作家活動に。第10回大藪春彦賞受賞の『すじぼり』(角川文庫)、『しにんあそび』『東京難民』(以上光文社文庫)、『ジューン・ブラッド』(幻冬舎文庫)、『灰色の犬』(光文社)、『死に金』(文藝春秋)など著書多数。