雪に閉ざされ、陸の孤島と化した山荘に集う、UFO研究家など一癖も二癖もある人物たち。そこで起きる連続殺人。探偵役を務めるのは眉目秀麗、頭脳明晰な「スターウォッチャー」星園詩郎。本格ミステリーの王道のシチュエーションで、読者に真っ向から「犯人当て」を挑む作者の意気やよし。繰り広げられる推理はフェアでロジカルなので、あなたも手がかりを見落とさなければ、解けるはず!? 真相を知った上で冒頭から読み返すと、張り巡らされた伏線の妙に気づき、物語の本当の意味が浮かび上がって、驚くこと必至。
二度読み推奨の傑作!
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倉知淳さんのミステリはとぼけていて、ユーモラスで、それでいてきらりと光る論理の刃があり、大胆不敵にして冷徹な発想が潜んでいます。
下手をすると難解で退屈になりかねない謎解きの詳しい説明も(ミステリで一番面白いはずの場面がそうなってしまう不幸を何度体験してきたことか!)、倉知さんは、平明で軽快な達意の文章で、すらすらと飽きさせることなく、わかりやすく語りきり、ニコリと笑っているのです。
まったく恐るべき手腕と言わなければなりません。
このような倉知ミステリの特徴を集約したキャラクターが、猫丸先輩です。「猫丸」とはちょっと気になる名前ですよね。この猫丸先輩を探偵役とするシリーズは短編集が3冊、長編が1冊出ていますので、ぜひ読んでみてください。 おっと、お薦めするのは『星降り山荘の殺人』でした。この作品は1996年に発表された長編第二作です。倉知さんは本格ミステリの王道というべき、「吹雪の山荘で起きる殺人と、その犯人探し(フーダニット)」に真正面から挑んでいます。
「犯人探し」はまさにベーシックな趣向ですが、もっとも難しいテーマでもあります。なぜなら「意外な犯人」はあらゆるパターンが出尽くしていて、読者もそれらのパターンを意識しながら読み進めたりするからです。そうなると最後に犯人の正体が明らかになっても、読者はなかなか驚いてはくれません。
ですが、この『星降り山荘の殺人』では見事な「犯人探し」が展開されます。発表されてから20年が経ちますが、今も読み継がれていて、驚きと賞賛の声が絶えないのは、ラストで探偵役が披露する鮮やかな「犯人限定の論理」が素晴らしいからでしょう。
連続殺人の現場の状況を入念に検討して、「犯人の条件」を導き出す。その条件に当てはまるのは誰なのか、吹雪の山荘に集った人物たちの言動や、ささいな手がかりをベースに推理を展開し、絞り込んでいく。
このロジカルな推理のパートは実はびっくりするくらい長いのですが、先ほども述べたように、倉知さんは読者をわくわくさせながら、一気に読ませてしまいます。
同時に、読者はこの緻密なロジックを支えている細やかな伏線の妙を知らされ、思わず確かめたくなって、前半を読み返してしまう。そんな効果もある解決編なのです。
『星降り山荘の殺人』は日本の現代本格ミステリにおける屈指の傑作です。
これほどまでに純粋に面白いミステリは滅多にありません。絶対のお薦めです!
(読んでいただければ、この大傑作になぜ猫丸先輩が登場しないのかもわかりますよ。)
1962年静岡県生まれ。93年、『競作 五十円玉二十枚の謎』で若竹賞を受賞してデビュー。2001年、『壺中の天国』で第1回本格ミステリ大賞を受賞。2015年刊行の『片桐大三郎とXYZの悲劇』は各種ミステリランキングで上位に。寡作だが、その作品はすべて高水準で、新作を常に渇望されている。