血なんか繋がってなくても、ふつうじゃなくても、魔法のことば「お帰りなさい!」を大きな声で叫べば、大好きなあの人は大切な家族に変わる。
離婚し親にも勘当され、親友の父子家庭宅に居候しながら、家事と子育てに励む元シェフ渡辺毅と、再婚にも失敗し、愛情を注いで育てあげた前夫の連れ娘と引き離されたキャリアウーマン児島律子。鷺沢萠が、「家族ってなあに?ふつうってなあに?」ということを考え続け書き上げたという本作。ユーモラスでキュートな家族の絆を描いた2つの物語に、温かな涙がとまりません。三浦しをんさん大絶賛!
ランドセルを玄関口に投げ込み、友達の待つ公園に駆け出す昭和のわんぱく小学生みたいな「ただいま!」。ひとり暮らしの部屋に戻って小さくつぶやく「ただいまぁ」。今日もどこかで絶え間なく誰かが「ただいま」と言っている。そんな「ただいま」をなぜ私たちは口にするのかといえば、それは「お帰りなさい」のひと言が欲しいからにほかなりません。人間とは「お帰りなさい」を狂おしく求め続ける存在なのです。「いいね!」を欲しがるはるか前から・・・。
鷺沢萠『ウェルカム・ホーム!』(新潮文庫)は、大きな「ただいま」の声に「お帰りなさい」がかえってくるうれしさと安心が、ページからあふれ出す物語です。
この作品では、ふたつの「家族」が描かれます。アラフォー、バツイチで家を追い出された悲しき男が心機一転、主夫として親友の父子家庭を支えることを決意する「渡辺毅のウェルカム・ホーム!」。そして、離婚で離れ離れになった前夫の連れ娘を案じる、敏腕キャリアウーマンの奮闘を描いた「児島律子のウェルカム・ホーム!」。
それぞれの主人公は、子供との間に血のつながりをもちません。やむない事情で子供の「親」の立場に立たされ、「家族」を始めることになった、もとはといえば他人の仲。でも、いや、だからこそ彼らは手を抜かない。それぞれのやり方で子供との絆を結ぼうと必死にもがきます。その頑張りは手探りで、ときどき見当違いにみえたりするけれど、そんなすべてに私たちはどうしようもなく心を揺さぶられます。
とかく人は血は水よりも濃い、などといいます。でも、主人公をハラハラしながら見守りながら温かな涙を誘われる頃には、手づくり弁当の端からにじみ、鞄のなかの教科書に染みこむ肉汁のしょうゆ色にさえ、血に負けぬ確かな濃さを見ることでしょう。そして二人の祈りのような「お帰りなさい」の響きのなか、少しずつ育っていたものの姿に目をみはるはず――。
上智大学在学中に新人賞を受賞、はっとするような美しさと端正な文体で颯爽とデビューした鷺沢萠さんは、人と人が繋がるかけがえなさを問い続け、35年の短い生涯に大きな足跡を残しました。そんな人間への揺るぎない信頼をかたちにした著者の集大成『ウェルカム・ホーム!』が、いま、家族に戸惑う私たちのまえでふたたび光をはなちます。