RECOMMEND おすすめ

第25回PUSH!1st.「バイリンガル」

2024.03.01
Push!1st.

喋れなくなった英語、封印した記憶、見捨てられた人生...
アメリカで起きた誘拐殺人事件から30年、言語科学が導き出す真実とは?
知性を刺激する正統派本格ミステリー

バイリンガル

高林さわ/光文社/946円(税込)

アメリカの大学都市で30年前に起きた母娘誘拐事件―。複数の死亡者を出した凄惨な事件で生き残ったのは、当時3歳の少女・ニーナ。事件のあった町を避けるように日本に帰ってきた永島聡子は、ある日、一人息子の武頼が連れ帰ってきたニーナを名乗る女性に、事件の記憶をためらいながらも語りはじめる。解決したはずの事件の真相は、30年の時を経て衝撃の様相を呈し―。
画期的な新暗号の誕生!知性を刺激する正統派本格ミステリー。島田荘司選第5回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。

在庫を見る
著者/高林さわさんのコメント

「バイリンガル」では、執筆にあたって二つのポイントを意識しました。
一つは子供のことばの問題です。3歳から5,6歳の子供のお父さんお母さん、あるいはその年頃の子供に接した人達はたまに、首をひねったことがあるかもしれません。「おかしな発音をしている」と心配に思っているうちに、その発音が固定化してしまったみたいだと、ことばの教室に連れていくことがあるかもしれません。ことばの教室では、発音がちがう、どもる、発語がおそい、というような子供さんが抱えているトラブルの原因を見極めます。医学的な問題がない場合は、教室の先生(言語治療士)が子供さんと遊びながら(!)、問題の解決に努めます。そのうちに、言語治療の成果や子供の成長などによって、問題がなくなることが多いのではないかと思います。
著者は日本とアメリカで、合わせて4年近く言語治療の理論と実践を学びました。40年ほど前のことです。その当時、アメリカには、山崎朋子さんのご著書で知られる「あめゆきさん」と称される女性がだいぶいらっしゃいました。独身の方も、結婚して子供さんを育てている方もおられました。
「バイリンガル」では、あめゆきさんを思わせるような女性達と、その子供の生き方について焦点をあてたつもりです。後半部分では、30年前に登場した子供達の現在を追いかけました。前半では3歳だった幼児が、美しい女性となって後半に登場し、抱えている悩みを訴える場面などが出てきます。
悩みを解決するためのキーワードを、言語治療士が身近に感じることば、として示しました。そのためか、「バイリンガル」は暗号小説と言われました。それは著者にも思いがけないご褒美でした。でも、たぶん言語治療士なら、理論を学んでいますから、小説を読むだけで謎が解けるのではないか、と思います。物語の謎は英語で示してありますが、中学の時に学んだ発音記号を思い出して解いてみてください。意外にすっきりと解明できるのではないでしょうか。
暗合の面白さのほかに、登場人物の生き方についても、注意深く書いたつもりですので、それを感じていただきたいです。小説で描いた時代に米兵とともにアメリカに渡った女性達が、日本を離れてどんなふうに生きていったのか、何をどう考えたのか、親や子や愛する男性を思って、どのように行動したのか......。ということを味わっていただけたら、と思っています。
お読みいただいて、ありがとうございます。

著者来歴

1945年千葉県生まれ。千葉大学卒業。米国パデュー大学大学院中退。
1981
年「小説現代新人賞」受賞。
2012
年「バイリンガル」で島田荘司選第5回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞。
「バイリンガル」は2018年文庫化され、啓文堂書店文庫大賞候補になった。

〈開催期間:2020年6月8日(月)~ 7月19日(日)〉
PUSH!1st.一覧へ
  1. TOP
  2. おすすめ
  3. 第25回PUSH!1st.「バイリンガル」