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第27回PUSH!1st.「冬の光」

2024.03.01
Push!1st.

何が正しくて何が間違っているかは
誰にもわからない。
読んだ人の数だけこの物語の真相はある。

冬の光

篠田節子/文藝春秋/968円(税込)

四国遍路を終えた帰路、冬の海に消えた父。高度成長期の企業戦士として、専業主婦の妻に守られた家庭人として、恵まれていたはずの人生だった。死の間際に想ったのは、家庭の外で愛し続けた女なのか、それとも――夫への恨みに取り乱す母を前に、次女・碧の心には何かが切なくひっかかる。休暇を使って四国を訪れ、遍路道で父の足跡を辿るうち、碧はある事実を知るのだった。
まじめで有能なひとりの男の内側に広がっていた景色、家族と男女関係の先に横たわる人間存在の危うさをあぶりだす、圧倒的長編。

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著者/篠田節子さんのコメント

夫に、父に、青春時代から四十年も関係が続いている「人」がいた。
愛人とも同士とも親友とも、曰く言いがたい女性との関係。
「夫婦仲良く、親を大切に」の通俗的倫理観で一刀両断できない人の心の底知れなさと、人生の深層を掘り下げていくことは、テレビドラマや、ノンフィクションではたぶん難しく、小説という形を取ってこそ、可能になるものではないかという気がします。
映画にアニメにYouTubeに、私たちを夢中にさせる物語があふれている中、小説以外では表現できないものを書いてみたいと思い、あえて選んだ題材です。
ここに登場するヒロインには私が十代の終わり頃、ゼミでご指導いただいたり、その本を読んだりして大きな影響を受けた先生方や、作家となった後、ライバルと目されつつ交流のあった女性作家の思想やその姿が投影されています。今では皆さん鬼籍に入ってしまいましたが、彼女たちの残してくれたものにはあらためて敬意を表したいと思っています。
家族劇の背景にあるのは、この国の見えにくい差別構造であったり、意識せぬまま過ごしてきた格差社会であったり、世俗化した宗教の姿であったりします。
私より一世代上の男性の人生と家庭を描くことで、戦後の高度成長期から平成末期までの日本という国の有り様と、その先にある永遠なるものがわずかでも読者の目に見えてくれたらたいへん幸せです。
最後になりますが、単純明快な感動と共感で、笑って泣いてすっきり、とはいかない作品を「プッシュファースト」としてあえて選んでくださった皆様方に心から感謝申し上げます。

著者来歴

1955年東京都生まれ。東京学芸大学卒業後、東京都八王子市役所勤務を経て、90年『絹の変容』で作家デビュー。
97
年『ゴサインタン―神の坐―』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、09年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インド・クリスタル』で中央公論文藝賞を受賞。

〈開催期間:2021年1月1日(元日)~ 2月11日(木・祝)〉
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