人間関係のトラブルがきっかけで、逃げるように大学を休学し、一人暮らしをしながらコンビニバイトを始めた富山。相変わらず人間関係は苦手なまま。深夜ラジオのリスナーであることは変わらない。だがコンビニでバイトをするうちに、バイトリーダーでネットでは「歌い手」として活躍する鹿沢、同じ深夜ラジオ番組のヘビーリスナーの佐古田、旧友の永川との交流を通し、世界が鮮やかな色を取り戻していく。
実在した深夜ラジオ「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」を織り込み、若者たちの孤独と繋がりを温かく描いた青春小説。
タイトルは、まだ二十代前半の習作時代につけていたもので、都会の夜の中をさまよう少年少女が出会い、交流するというイメージだけで、ストーリーを作れないまま、とん挫してしまった。よくある設定だと思うが、こうした作品の根っこ、元みたいなものは、すごく貴重で替えがきかない。自分自身に深く根差しているし、抜き差しならない必然性がある。
本作に個性を与えた要素は、むしろ、後付けのものだ。ラジオ、主人公の病的なコミュニケーションの悩み。執筆稼業を続けるうちに、色々な要素を融合させ、成型するスキルが身についたように思う。
創作は、いつの日も、よくわからないまま、やっている。スキルが身についても、なお、本当によくわからない。書きたいものを、必死でぼんやりと追いかけて、言葉を探して、積み上げて、完成させる。
富山が来て、佐古田が来て、鹿沢が来て、金沢八景がいいらしいとなり、アルコ&ピースのラジオが面白すぎるから、もうそのまま使ってしまえとなる。書き上げてから、これは諸方面に責任がとれるものだろうかと冷や汗をかく。幸運にもOKとなり、世に出て、大きな賞までいただき、たくさんの方々に喜んでいただけた。ラジオドラマになり、演劇にもなった。
1962年、東京生れ。青山学院大学文学部卒業。1989年「サマータイム」で月刊MOE童話大賞受賞。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で1998年度日本児童文学者協会賞、路傍の石文学賞を受賞。『一瞬の風になれ』で2007年に本屋大賞、吉川英治文学新人賞、『明るい夜に出かけて』で2017年に山本周五郎賞を受賞した。
著書に『しゃべれども しゃべれども』『神様がくれた指』『ハンサム・ガール』『夏から夏へ』『第二音楽室』『聖夜』など。