PUSH!1st ブックファーストの一押し本

「明るい夜に出かけて」

絶対読得宣言!

明るい夜に出かけて

どこまでも暗く
孤独な夜を生きる若者が
人との繋がりによって
明かりの灯る夜へと
導かれていく……
悩み抜いた先に見える灯火を
貴方も見つけていただきたい。
佐藤多佳子著
新潮社/825円(税込)

人間関係のトラブルがきっかけで、逃げるように大学を休学し、一人暮らしをしながらコンビニバイトを始めた富山。相変わらず人間関係は苦手なまま。深夜ラジオのリスナーであることは変わらない。だがコンビニでバイトをするうちに、バイトリーダーでネットでは「歌い手」として活躍する鹿沢、同じ深夜ラジオ番組のヘビーリスナーの佐古田、旧友の永川との交流を通し、世界が鮮やかな色を取り戻していく。
実在した深夜ラジオ「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」を織り込み、若者たちの孤独と繋がりを温かく描いた青春小説。

作家佐藤 多佳子さん

<著者来歴>

1962年、東京生れ。青山学院大学文学部卒業。1989年「サマータイム」で月刊MOE童話大賞受賞。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で1998年度日本児童文学者協会賞、路傍の石文学賞を受賞。『一瞬の風になれ』で2007年に本屋大賞、吉川英治文学新人賞、『明るい夜に出かけて』で2017年に山本周五郎賞を受賞した。
著書に『しゃべれども しゃべれども』『神様がくれた指』『ハンサム・ガール』『夏から夏へ』『第二音楽室』『聖夜』など。

【著者】佐藤 多佳子さんのコメント

タイトルは、まだ二十代前半の習作時代につけていたもので、都会の夜の中をさまよう少年少女が出会い、交流するというイメージだけで、ストーリーを作れないまま、とん挫してしまった。よくある設定だと思うが、こうした作品の根っこ、元みたいなものは、すごく貴重で替えがきかない。自分自身に深く根差しているし、抜き差しならない必然性がある。

本作に個性を与えた要素は、むしろ、後付けのものだ。ラジオ、主人公の病的なコミュニケーションの悩み。執筆稼業を続けるうちに、色々な要素を融合させ、成型するスキルが身についたように思う。

創作は、いつの日も、よくわからないまま、やっている。スキルが身についても、なお、本当によくわからない。書きたいものを、必死でぼんやりと追いかけて、言葉を探して、積み上げて、完成させる。

富山が来て、佐古田が来て、鹿沢が来て、金沢八景がいいらしいとなり、アルコ&ピースのラジオが面白すぎるから、もうそのまま使ってしまえとなる。書き上げてから、これは諸方面に責任がとれるものだろうかと冷や汗をかく。幸運にもOKとなり、世に出て、大きな賞までいただき、たくさんの方々に喜んでいただけた。ラジオドラマになり、演劇にもなった。

本当に幸せだ。数々の幸せをかみしめて感謝しつつ、それでも、私はまだぼんやりとしている。とても昔に、形にならなかったイメージだけを抱えていた夜を思い出そうとして、見えるような見えないようなもどかしい気持ちになるのだ。

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