懐かしくも儚い記憶のかけらと
出会えるアーケード。
貴方にとって
最果てとは…
10の物語から
感じ取ってみて下さい。
小川洋子著
講談社/660円(税込)
岡山市生まれ。早稲田大学文学部卒。
1988年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞、同年『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花賞、06年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、13年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
撮影・講談社写真部
【著者】小川洋子さんのコメント
子供の頃からアーケードに興味がありました。あまりはやっているとは言えない、天井のある、ちょっと薄暗い感じのアーケードです。町の中にぽつんと取り残された、細長い通路。半分屋外のようで、半分閉じられているようで、一歩足を踏み入れると、空気の感触が変わります。何を売っているのかよく分からないお店があったり、化石のように動かない店主の姿が目に入ったり、ステテコ姿のおじいさんが自転車でふらふらと通り過ぎて行ったりします。時間の波のすき間に吸い込まれたような気分です。
そんなアーケードに自分の好きなお店を並べ、商品を配置してみたのが『最果てアーケード』です。すると自然に店主たちが浮かび上がってきました。お客さんたちも姿を現しました。彼らを描写しているうちに、いつの間にか物語が生まれていた、という感じです。彼らは皆どこか懐かしく、はかない雰囲気をまとっています。時間のすき間に足を取られ、気がつくと最果てまでたどり着いていた、でもまあ、それも仕方ない、と思っているようです。誰もじたばたしていません。
どうかこのアーケードに買い物にいらして下さい。心惹かれるお店がきっとあるはずです。道順は難しくありません。本のページを開くだけでいいのです。
ただちょっと心配なのは帰り道です。迷子にならないよう、十分に用心して下さい。お願いします。
ブックファーストの皆様、最果てにひっそり隠れているような、この本に目をとめて下さって、どうもありがとうございます。そしてもちろん、本を手に取って下さった読者の皆様にも、心からの感謝を捧げます。
小川洋子