PUSH!1st ブックファーストの一押し本

「星降り山荘の殺人」

絶対読得宣言!

審理炎上

答えがはっきり書かれてたのに・・・・
フーダニットの国産名作
倉知 淳 著
講談社/本体752円+税

雪に閉ざされ、陸の孤島と化した山荘に集う、UFO研究家など一癖も二癖もある人物たち。そこで起きる連続殺人。探偵役を務めるのは眉目秀麗、頭脳明晰な「スターウォッチャー」星園詩郎。本格ミステリーの王道のシチュエーションで、読者に真っ向から「犯人当て」を挑む作者の意気やよし。繰り広げられる推理はフェアでロジカルなので、あなたも手がかりを見落とさなければ、解けるはず!? 真相を知った上で冒頭から読み返すと、張り巡らされた伏線の妙に気づき、物語の本当の意味が浮かび上がって、驚くこと必至。
二度読み推奨の傑作!

作家倉知 淳さん

<著者来歴>

1962年静岡県生まれ。93年、『競作 五十円玉二十枚の謎』で若竹賞を受賞してデビュー。2001年、『壺中の天国』で第1回本格ミステリ大賞を受賞。2015年刊行の『片桐大三郎とXYZの悲劇』は各種ミステリランキングで上位に。寡作だが、その作品はすべて高水準で、新作を常に渇望されている。

講談社 文芸第三出版部 都丸 尚史さんのコメント

倉知淳さんのミステリはとぼけていて、ユーモラスで、それでいてきらりと光る論理の刃があり、大胆不敵にして冷徹な発想が潜んでいます。
下手をすると難解で退屈になりかねない謎解きの詳しい説明も(ミステリで一番面白いはずの場面がそうなってしまう不幸を何度体験してきたことか!)、倉知さんは、平明で軽快な達意の文章で、すらすらと飽きさせることなく、わかりやすく語りきり、ニコリと笑っているのです。
まったく恐るべき手腕と言わなければなりません。
このような倉知ミステリの特徴を集約したキャラクターが、猫丸先輩です。「猫丸」とはちょっと気になる名前ですよね。この猫丸先輩を探偵役とするシリーズは短編集が3冊、長編が1冊出ていますので、ぜひ読んでみてください。 おっと、お薦めするのは『星降り山荘の殺人』でした。この作品は1996年に発表された長編第二作です。倉知さんは本格ミステリの王道というべき、「吹雪の山荘で起きる殺人と、その犯人探し(フーダニット)」に真正面から挑んでいます。
「犯人探し」はまさにベーシックな趣向ですが、もっとも難しいテーマでもあります。なぜなら「意外な犯人」はあらゆるパターンが出尽くしていて、読者もそれらのパターンを意識しながら読み進めたりするからです。そうなると最後に犯人の正体が明らかになっても、読者はなかなか驚いてはくれません。
ですが、この『星降り山荘の殺人』では見事な「犯人探し」が展開されます。発表されてから20年が経ちますが、今も読み継がれていて、驚きと賞賛の声が絶えないのは、ラストで探偵役が披露する鮮やかな「犯人限定の論理」が素晴らしいからでしょう。
連続殺人の現場の状況を入念に検討して、「犯人の条件」を導き出す。その条件に当てはまるのは誰なのか、吹雪の山荘に集った人物たちの言動や、ささいな手がかりをベースに推理を展開し、絞り込んでいく。
このロジカルな推理のパートは実はびっくりするくらい長いのですが、先ほども述べたように、倉知さんは読者をわくわくさせながら、一気に読ませてしまいます。
同時に、読者はこの緻密なロジックを支えている細やかな伏線の妙を知らされ、思わず確かめたくなって、前半を読み返してしまう。そんな効果もある解決編なのです。
『星降り山荘の殺人』は日本の現代本格ミステリにおける屈指の傑作です。
これほどまでに純粋に面白いミステリは滅多にありません。絶対のお薦めです!
(読んでいただければ、この大傑作になぜ猫丸先輩が登場しないのかもわかりますよ。)

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「Iターン」

絶対読得宣言!

審理炎上

郷に入りては郷に従う・・・・しかない、サラリーマン必死の生き残り作戦! 福澤 徹三  著
文藝春秋/本体770円+税

中堅の広告代理店勤務の狛江が拝命した北九州支店への転勤。意気揚々と赴任した新・支店長狛江を待ち受けていたのは、なんとヤクザの兄弟杯! 平凡なサラリーマンだったはずの狛江は、あっという間にカタに嵌められ、アリ地獄のような借金漬けに。借金返済のために課せられる予想外の非合法的営業活動、そして爽快なまでの暴力・暴力・暴力。しかし、ひどい目にあわされたものの、遠くの冷たい妻子より、妙に家庭的な近くのヤクザにいつしかなじんでしまった支店長の今後はいかに――!? スラップスティックで、一風変わった大人の成長物語。

作家福澤 徹三 さん

<著者来歴>

1962年福岡県生まれ。デザイナー、コピーライター等を経て、作家活動に。第10回大藪春彦賞受賞の『すじぼり』(角川文庫)、『しにんあそび』『東京難民』(以上光文社文庫)、『ジューン・ブラッド』(幻冬舎文庫)、『灰色の犬』(光文社)、『死に金』(文藝春秋)など著書多数。

文藝春秋 文庫・新書局 文春文庫部 松本 大輔さんのコメント

「Iターン」とは、本来、都市で生まれ育った人が、地方企業に就職することを示す言葉。しかし本作の「I」とは「自分」。主人公の狛江が、本当の自分にターンすべく、迷い、のたうち回り、足掻く物語です。
狛江は広告代理店勤務。北九州に支店長として単身赴任したのが運の尽き。実は支店はハナからリストラ候補。それでも必死に営業に励みますが、仕事のトラブルから借金を抱え、挙げ句、やくざに絡まれ万事休す。
狛江があれよあれよという間にカタに嵌められていくさまはコワいのですが、あまりにテンポがよすぎて、もはや痛快。これぞ近作「侠飯」シリーズにも通じる福澤節。ひとたびこのグルーヴに巻き込まれたら、脳からはドーパミンが噴出、ページを繰る手を止めることは不可能です。  一方、痛快さの裏で、福澤さんは私たちに重大なテーマを突きつけます。「働くって何?」「会社って何?」「正義って何?」――。
「都合の悪いことは、みんな下っぱのせいにして、給料やボーナスを削ったり、リストラしたり、(会社は)上の人間が金を取り込むためにあるんすか」
部下の柳が、狛江に食ってかかる台詞です。
本作には、百科事典の飛び込み営業に始まり、水商売、コピーライター、専門学校講師など数多の職を経た福澤さんの〝仕事観〟が横溢しています。誰もがその言葉に自らの立場を投影し、考えざるを得ないでしょう。
ノンストップのエンタテインメント性と、それを貫く骨太のテーマ。福澤作品の真骨頂が、本作には詰まっています。この先の人生に悩む中堅サラリーマンの方々。今まさに仕事選びをしている学生さん。あるいは、何か面白い小説を探している方。……つまり、すべての方々に自信を持ってお勧めできる傑作です!

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