1ページ、1ページ真実に
近づいていく緊張感。
その先に待ち構える余韻の波にのまれてみてください。
広川 純 著
文藝春秋/本体 590円 + 税
1946年京都府生まれ。69年名城大学法学部卒業。
会社勤務を経て、86年に保険調査会社へ転職し88年に独立する。2006年に『一応の推定』で、選考委員全員一致で第十三回松本清張賞を受賞する。2009年には巨大宗教団体の内幕を描いた『回廊の陰翳(かげ)』を刊行、同書は2012年に文春文庫で文庫化された。
文藝春秋 文庫・新書局 文春文庫部 荒俣勝利さんのコメント
JR膳所(ぜぜ)駅で轢死した老人は事故死だったのか、それとも保険金目当ての覚悟の自殺だったのか?
松本清張賞の下選考で本作を読み始めたとき、ベテラン保険調査員がこの一点を巡って淡々と調査を進める、ちょっと地味なミステリーという印象を持ちました。
ところが読み進めるうちに、わずかな手掛かりをきっかけに様相は二転三転し始め、老人の死の背景に保険制度の死角や臓器移植の問題などがわだかまっていることが明かされていきます。
一見些細な事件から、人間の心理の綾、さらには現代社会が抱える問題点までが描かれる松本清張の作風を彷彿とさせ、興奮を覚えたものでした。『一応の推定』は本選考会でも好評で迎えられ、全会一致で第13回松本清張賞を受賞しました。
著者の広川純さんは作品の主人公と同様、凄腕の保険調査員でした。清張作品の刑事たちと同じように自分の足で現場を巡り、粘り強く事件の真相に迫った経験が、この作品を書かせました。
余談ですが、いささか堅物の村越と違って、いかにも上方(京都のご出身です)の人らしい陽気で洒脱な広川さんと、京都や大阪で飲むお酒はじつに楽しかったこともお知らせしておきます。