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「あやぽん」著者:新野剛志

作家 新野 剛志(しんの たけし)さんインタビュー

東京都生まれ。旅行会社勤務を経て、1999年「八月のマルクス」で第45回江戸川乱歩賞を受賞し小説家に。著者に「もう君を探さない」「Fly」「愛ならどうだ!」などがある。
著者:新野剛志さん 空港を舞台にした「あぽやん」を執筆されたきっかけは?

新野 : 編集者と、過去に勤めていた空港の話をしたことがありまして。僕としては当たり前の話ばかりだったのですが、編集者に「へー!そんなことが!」って驚かれまして「それじゃ、小説にしてみましょうか」となりました。

実際、空港ではどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

新野 : 本の「あぽやん」(空港で働くエキスパート)そのままでした。入社後の最初の勤務地が空港で、旅行会社のカウンターでチェックインをしていました。のちに主人公と同じ、スーパーバイザー(マネージャー職)に就きました。
実際空港では、一つひとつ短い時間で仕事をこなしていくので、お客様の背景を知ることが少ないんです。そのお客様にとって今回の旅行がとっても大事なものだったりするかもしれないのですが、そこまで触れるような機会はなかなかありません。
なので、空港に来られたお客様が無事に飛行機に乗って旅立たれる―それが基本的な仕事の喜び。飛行機に間に合わないお客様の荷物をかついで一緒にゲートまで走り、出発時刻に間に合って良かったなとか、そういう小さな喜びの積み重ねが、実際の接客の喜びだったりしますね。

空港で勤められていた時の印象的なエピソードを教えてください。

新野 : 「あぽやん」でほとんど書き尽くしましたが、印象に残るエピソードは、多くが苦労話やトラブルです。子どもを置いて出発したお客様の話や、社員の新婚旅行で奥さんのパスポートが無くなった話も実話です。腹が立つこともかなりありました。右翼の大物の方がいらっしゃって、本社のちょっとした行き違いからクレームに。黒ずくめのスーツを着たコワイ方に囲まれ、「ゲートまで案内しろ」と。繁忙期の忙しい最中、半ば拉致されるように連れて行かれました。多少デフォルメしていますが、実話をかなり注ぎ込んでいます。

主人公が30代という設定は、何か理由があるのでしょうか?

新野 : 僕自身が30歳の時に会社を辞めているのですが、それぐらいの年齢って、入社から一生懸命働いてきて、ある程度将来が見えてくると、立ち止まって考えたりすると思うんです。思ってもみなかった所へぶち込まれた主人公の、心の揺れみたいなものを含めて書けたら面白いな、と。それには30歳という年齢がちょうど良いかなと思ったんです。

著者:新野剛志さん この作品はどういった方たちに読んでいただきたいですか?

新野 : 空港の雰囲気を伝えている小説って他にあまりないので、欲を言えば、全ての人に読んでいただきたいですが、空港に勤めたい、あるいは接客業をしたいと思っている方にもぜひ読んでいただきたいですね。何か通じるものは必ずあると思うので。ただ、ますます空港で働きたい! と思うか、こんな所なら嫌だな…と思うか、その辺りはちょっとわからないですが(笑)

書店の魅力はどこにあると思いますか?

新野 : 実際に本を手に取ったり、ぱらぱらっと読めたりする。あらすじや解説を見ながら、自分の勘や想像力で本を選ぶというのが、本の楽しみの一つで、それが出来るのは本屋しかないと思います。
また、知らない本、思わぬ本との出会いがある。そういった出会いに期待できるのも本屋だと思うんです。僕は、小説家になろうと決めたものの、何を書けば良いのか分からなかった時期があるんです。ミステリーをよく読んでいたので、ミステリーを書こうと思ったんですが、日本のミステリーはどういうものが読まれているのか知りませんでした。翻訳もののミステリーばかり読んでいたんですね。
ある日、本屋でたまたま書店員さんが書かれたポップが目に入ったんです。志水辰夫さんの「裂けて海峡」という本で、「騙されたと思って読んでみて。すごく面白い!」みたいなことが書かれていて。なんだか惹かれるものがあったので、そのまま買って読んでみると、「これだ!」と思いました。今まで文体というものを意識していなかったのですが、志水さんの文体に触れて、「文体で読ませることができるんだ」と思ったんです。本屋に行って、そのポップを目にしなければ、その本とは出会っていなかった。もしかしたら作家にもなれていなかったのかもしれない。本屋とは、そういう“出会い”というものが起こる場所だな、と実体験から感じました。

作家になられたきっかけは?

新野 : 小説への情熱というよりは、仕事を辞めてしまって何かしなければならない、失踪してホームレスの状態で、社会に戻るにはどうしたら良いのか考えた時に、小説なら鉛筆と原稿用紙さえあればできると考えたんです。ずっと小説を読んでいたし、自分に何かしらできるとしたら、小説を書くことなのかなと思って。エンターテインメントに魅せられてとか、そういった情熱に突き動かされたわけではないんです。

その頃のエピソードを教えてください。

新野 : ホームレスみたいな生活をしていても夏休みはあるんです。夏には応募する賞もなくなるので。最初の夏は、キャンプ道具を入れたリュックを背負って、西日本をずっと回っていました。その時に京都へ寄ったんです。お金は無いけど京都名物が食べたくなり、「そうだ! 京都といえば王将だ!」と餃子を食べました(笑)

執筆活動について教えてください。 著者:新野剛志さん

新野 : ほぼ毎日、朝10時から夜中の2時ぐらいまで働いています。間にどこかへ出かけたりもするのですが。割と早く書ける方なので、月の10日ぐらいは仕事場で執筆作業に、残りの時間はストーリーなど考える時間に充てることが多いです。近所の喫茶店を2~3軒はしごしたり、歩きながら考えることもありますね。ほとんど気分転換みたいなもので、頭だけずーっと動かし続けて。あまり知らない場所を歩くと、風景に気が散ってしまうので、よく見知った、近所を歩きます。
出来れば夜、真っ暗な方が良いので、真夜中にも歩いたりします。警察に職務質問されたらどうしよう、とか思いますが (笑) もう何年もやっていますが、ものすごい閃きにあったことは案外少なく、ひたすら狭い範囲で「この先のストーリー展開をどうしようかな」というのを考えたりしています。

これから書いてみたい作品などはありますか?

新野 : 基本的に、家系が「あぽやん」なんです。父は航空会社に勤めていて、空港で勤務していたこともあるし、祖父は、戦前に新聞社のパイロットだったんです。その当時は空軍もない時代ですので、新聞社のパイロットっていうのは花形の職業だったんです。
これは僕も最近知ったのですが、満州で起きた「張作霖爆殺事件」の、新聞や教科書に載っている写真を中国から運んだのは、うちの祖父らしいんです。特に祖父をモデルに、というわけではないのですが、戦前の、新聞社のパイロットが主人公で、冒険小説みたいなものが書けたら面白いな、と思っています。


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